MENU
リチウムイオン電池が発火・爆発する原因
コラム 最終更新日: 掲載日:

ニュースなどでご存知の方も多いと思いますが、2018年に入ってからスイス、スペイン、香港のApple StoreでiPhoneのバッテリーの交換作業中にバッテリーが発火するという事故がありました。中国では取り外したiPhoneのバッテリーを噛んだら口元で爆発したという動画がWEBやテレビで流れましたね。

また、2016年にはSamsungのGalaxy Note 7でバッテリー爆発が複数件発生してリコールになったり、飛行機への持ち込みが禁止されるということもありました。

現在、ほぼ全てのスマートホンでリチウムイオン(リチウムイオンポリマー)電池という種類のバッテリーが使われています。それはリチウムイオン電池には「他のバッテリーと比較してエネルギー密度が高い」という長所があるからです。簡単に言うと小さなパッケージにたくさんのエネルギーを詰め込むことができるということです。そのためスマートホンで求められる「バッテリーの小型化、薄型化」を実現するのに適しているのです。

しかし、この長所の反面、リチウムイオン電池には「発火や爆発しやすい」という短所もあるのです。

リチウムイオン電池が爆発する原因

スマートホン用のバッテリーは正極(プラス極)、負極(マイナス極)、セパレーター(絶縁フィルム)、電解質溶液からなる「セル」に、電圧/電流の監視と制御を行う「保護回路」となる基板を取り付けて、プラスチックのケースやフィルムなどでパッケージされています。リチウムイオン電池ではセル内の化学反応の結果、正極と負極の間をリチウムイオンが移動することにより充放電します。

リチウムイオン電池は過充電や過電流を起こすと高熱を発し、最悪の場合は発火や爆発につながってしまいます。そのため、リチウムイオン電池には必ず保護回路が取り付けられ、過度な充放電や、過電流が起きないよう制御されています。しかし、何らかの理由で制御が働かないことがあるのです。

多くの場合においてキーワードとなるのは「セル内部のショート(短絡)」です。

リチウムイオン電池のセル内は、正極と負極の間をイオンが通り抜けることのできるセパレーターで絶縁しています。しかし、このセパレーターが破損するとセル内で電極間が電気的に繋がってしまい大電流が流れます。これがセル内部で発生するショートです。科学反応による発熱と電流による発熱により異常発熱や発火につながるのです。

【製品不良/個体不良】

10年ほど前にDELL、Appleなどのノートパソコンに搭載されていたソニー製バッテリーの発火事故が相次ぎ、全世界で1000万台近いバッテリーがリコールされたことがあります。この時は製造過程でセル内に混入した微細な金属粒子がセパレーターを破損し、ショートを引き起こして発火したとのことです。

冒頭にも触れたGalaxy Note 7のリコールでは、バッテリーの設計に問題がありセル内部で変形や破損がおこり、ショートしたことが原因との発表がされています。

ここまで大規模なものではなくても、その他の電気製品同様にバッテリーでも個体不良は発生します。
また、スマートホンのバッテリーについてはセルや保護回路の欠陥もありますが、セルと保護回路の取り付けに問題があることもあります。このあたりは後程説明します。

【経年劣化】

長期間の充放電を繰り返しているうちにセパレーターの劣化が進み、微細なショートが発生することがあります。
すぐに発火、爆発するというわけではないですが、わずかなきっかけで暴走しかねない不安定な状態といえます。

「最近、常にスマホが熱くなってきた」と感じたら、それはバッテリー内のショートが発熱の原因かもしれません。また、使っているうちにバッテリーが膨張してくることがありますが、これらは内部でショートしてガスが通常より多く発生しているサインです。

【外部からの圧力】

スマートホンのバッテリーを折り曲げたり穴をあけたりすると、セパレーターが破壊され簡単に発火、爆発します。さらにバッテリーを覆っているアルミフィルムが破けて外部の酸素と接してしまい一気に燃え上がる、、、これが爆発です。

「バッテリー 爆発」などで検索すれば、動画もたくさん見つかります!

スマートホンのバッテリーは大容量化、薄型化が進んでいますが、結果としてセパレーターや周辺を覆う素材が薄くなるなど、外部からの衝撃には弱くなっている傾向があります。昔のガラケーのバッテリーは固いプラスチックのケースで覆われており、簡単に曲がるようなことはありませんでしたが、最近のスマートフォンのバッテリーはアルミフィルムで巻いた形状となっており、力がかかると簡単に曲がってしまいます。

年初に発生した海外のApple Storeでの発火については、恐らくは経年劣化でセパレーターに微細な破損がある状態のバッテリーを取り外す時に力をかけすぎて、破損個所に圧力がかかってしまい一気にショートが進み発火に至ったものと推定されます。

取り外したバッテリーを噛んだら爆発した、、、理由は書くまでもありませんね!

PSEマークが付いていれば安全か?

日本には電気用品安全法という法律があります。これは電化製品の安全性について定められた法律で、リチウムイオン電池も対象となります。

リチウムイオン電池は「特定電気用品以外」として、左側の丸いPSEマークを表示しなければならないのですが、このマークを表示するために必要なのは出力や電圧などの検査(自主検査)と事業の届出です。

PSEマーク

自主検査をして届出をすれば表示できるのであって、「国が安全だと認めた」というものではありません。

これまで日本で発火、爆発したバッテリーの大半はメーカー純正で、交換用バッテリーが単体で流通している機種であればPSEマークもついているはずです!

きちんとした設備の工場で製造されたメーカー純正のバッテリーであっても、使っていれば劣化して発火することもあるし、衝撃が加われば爆発もするのです。それだけリチウムイオン電池というのは危険性が高いものなのです。

では、「PSEマークはあっても、なくても同じか?」というと、それは違うと思います。
PSEマークの申請にあたってきちんと求められている検査をやると、1機種あたり数十万円は検査費用がかかります。
「検査費用をけちる業者は、コスト重視で安いバッテリーを採用するだろう」ことが想像できるからです。

iPhoneのバッテリーを作っているメーカーは中国にたくさんあります。これらの工場はセルを仕入れ、安全回路の基板を仕入れ、自社の工場で組み立てて出荷しています。品質の悪い部材を使えば原価を抑えられるので売値も安くできます。
また、セルにしても、完成したバッテリーにしても、検品をしっかりやればやるほどコストがかかります。セルやバッテリーの検品は充放電をしながら一定期間置く必要があり時間がかかります。すぐに出荷できない、、、これもコストです。

従って安いバッテリーほど検品がいいかげんになってきます。
品質の悪い部材を使い、検品もいいかげんなバッテリーの方が、より危険であることは間違いないでしょう。

  • PSEマークがついていても、リチウムイオン電池は危険なので取扱いには注意が必要です。
  • でもPSEマークのついていない電池は、さらに危険な可能性が高いので避けた方が良いです。

ということになるでしょうか。

後編ではアイクラックトで採用しているバッテリーと、iCracked Storeでの交換作業についてご紹介します。